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『資本論』 抽象的に人間的な労働
abstrakt menschliche Arbeit
■ 探究項目 : 整約する reduzieren. →整約 〔Reduktion:還元(注1)〕
■ 抽象的に abstrakt :形容詞の副詞的用法で、「抽象的な」を副詞的用法で、「抽象的に」と翻訳する。したがって、「抽象的人間労働」の訳語は文法解釈で誤りとなる。
『資本論』 第1章 商品
第1節
〔Abstrahierenー他動詞・抽象する/自動詞(von)・・・・を度外視する(absehen)
- 抽象的な abstrakt -有用なる性質 Charakter 〕
■ 1-11 いまもし商品体の使用価値を無視する〔問題としない〕とすれば、商品体に残る属性Eigenschaftは、ただ一つ、労働生産物という属性だけである。だが、われわれにとっては、この労働生産物も、すでにわ れわれの手中で変化している。われわれがその使用価値から抽象する 〔Abstrahieren :度外視する〕ならば、われわれは労働生産物を使用価値たらしめる物体的な組成部分や形態からも抽象することとなる。それは もはや指物労働の生産物でも、建築労働や紡績労働やその他なにか一定の生産的労働の生産物 でもない。労働生産物の有用なる性質 Charakter とともに、その中に表わされている労働の有用なる性質は消失する。したがって、これらの労働のことなった具体的な形態も消失する。それらは もはや相互に区別されることなく、ことごとく同じ人間労働、抽象的に人間的な労働 abstrakt menschliche Arbeit に整約される〔還元する-還元される〕。
→1-9
「商品の交換関係をはっきりと特徴づけているものは、まさに商品の使用価値からの抽象〔捨象:〕である〔概念化する〕」
この1-9段落の「商品の使用価値からの抽象〔捨象〕」〔 die Abstraktion von ihren Gebrauchswerten
〕ー Abstraktion von を捨象するーとすると、1-11段落と整合性がとれることになる。マルクス『経済学批判』の「使用価値」規定を参照してください。
1-14 〔価値の大いさー価値形成実体 wertbildenden Substanz
〕
■ 1-14 このようにして、一つの使用価値または財貨が価値をもっているのは、ひとえに、その中に抽象的に人間的な労働が対象化されているから、または物質化されている materialisiert ist からである。そこで、財貨の価値の大いさはどうして測定されるか? その中に含まれている「価値形成実体 "wertbildenden Substanz"」である労働の定量によってである。労働の量自身は、その継続時間によって測られる。そして労働時間には、また時・日等のようか一定の時間部分としてその尺度標準
Maßstab がある。
第2節 〔有用労働の属性Eigenschaft〕
■ 2-16 すべての労働は、一方において、生理学的意味における人間労働力の支出である。そしてこの同一の人間労働、または抽象的に人間的な労働の属性において、労働は商品価値を形成する。すへての労働は、他方において、特殊な、目的の定まった形態における人間労働力の支出である。そしてこの具体的な有用労働の属性においてin
dieser Eigenschaft konkreter nützlicher Arbeit、それは使用価値を生産する(16)。
第3節 〔共通な人間労働という性格 gemeinsamen Charakter menschlicher Arbeit〕
■ 3.2. a)-5. 例えば、上衣が価値物として亜麻布に等しいとされることによって、上衣にひそんでいる労働は、亜麻布にひそんでいる労働に等しいとされる。さて上衣を縫う裁縫は、亜麻布を織る機織とは種類のちがった具体的な労働であるが、しかしながら、機織に等しいと置かれるということは、裁縫を、実際に両労働にあって現実に同一なるものに、すなわち、両労働に共通な人間労働という性格に、整約する〔還元する〕のである。この迂給を通って初めてこういわれるのである。機織も、価値を織りこむかぎり、裁縫にたいしてなんらの識別徴表をもっていない、すなわち、抽象的に人間的な労働であるというのである。ただおのおのちがった商品の等価表現 Äquivalenzausdruck のみが、種類のちがった商品にひそんでいる異種労働を、実際にそれらに共通するものに、すなわち、人間労働一般に整約して 〔reduziert:用語辞書「整約する」参照(還元する)〕、価値形成労働の特殊性格を現出させる。
等価形態 3-9 〔商品の物体は、抽象的に人間的な労働の表現〕
■ 9. 等価 Äquivalent のつとめをしている商品の物体は、つねに抽象的に人間的な労働の体現として働いており、しかもつねに一定の有用な具体的労働の生産物である。したがって、この具体的労働は、抽象的に人間的な労働の表現となる。例えば、上衣が、抽象的に人間的な労働の単なる実現となっているとすれば、実際に上衣に実現されている裁縫が、抽象的に人間的な労働の単なる実現形態〔Verwirklichungsform : ヘーゲル論理学・Wirklichkeit 現実性§142-145 参照 〕 として働いているわけになる。亜麻布の価値表現においては、裁縫の有用性は、裁縫が衣服をつくり、したがってまた人をもつくる〔ドイツには「着物は人をつくる」という諺がある。訳者〕ということにあるのでなく、次のような一つの物体をつくるところにあるのである。
すなわちこの物体にたいして、人は、それが価値であるという風に、したがって、亜麻布価値に対象化されている労働から少しも区別されない、労働の凝結物 Gallert であるというように、みなしてしまうのである。このような一つの価値鏡を作るために、裁縫自身は、人間労働であるというその抽象的な属性 abstrakten
Eigenschaft 以外には、何ものをも反映してはならない。
■ 10. 裁縫の形態でも、機織の形態でも、人間労働力は支出されるのである。したがって、両者は、人間労働の一般的な属性をもっている。そしてこのために一定のばあいには、例えば、価値生産においては、ただこの観点からだけ考察すればいいのである。すべてこれらのことは、神秘的なことではない。しかし、商品の価値表現においては、事柄は歪(ゆが)められる。
例えば、機織が機織としての具体的な形態においてではなく、人間労働としてのその一般的な属性おいて、亜麻布価値を形成するということを表現するために、機織にたいして、裁縫が、すなわち亜麻布等価物を作りだす具体的労働が、抽象的に人間的な労働の摑(つか)みうべき実現形態として、対置される 〔ヘーゲル論理学・現実性〕 のである。
■ 11. それゆえに、具体的労働がその反対物、すなわち、抽象的に人間的な労働の現象形態となるということは、等価形態の第二の特性 Eigentümlichkeit である。
第4節 〔 価値対象性 Wertgegenständlichkeit - 価値性格 Wertcharakter 〕
■ 7. 労働生産物はその交換の内部においてはじめて、その感覚的にちがった使用対象性から分離された、社会的に等一なる価値対称性を得るのである。労働生産物の有用物と価値物とへのこのような分裂は、交換がすでに充分な広さと重要さを得、それによって有用物が交換のために生産され、したがって事物の価値性格が、すでにその生産そのもののうちで考察されるようになるまでは、まだ実際に存在を目だたせるようにはならない。この瞬間から、生産者たちの私的労働は、事実上、二重の社会的性格を得るのである。これらの私的労働は、一方においては特定の有用労働として一定の社会的欲望を充足させ、そしてこのようにして総労働の、すなわち、社会的分業の自然発生的体制の構成分子であることを証明しなければならぬ。これらの私的労働は、他方において、生産者たち自身の多様な欲望を、すべてのそれぞれ特別に有用な私的労働がすべての他の有用な私的労働種と交換されうるかぎりにおいて、したがって、これと等一なるものとなるかぎりにおいてのみ、充足するのである。(全く)ちがった労働が等しくなるということは、それが現実に不等一であることから抽象される〔 Abstraktion 〕ばあいにのみ、それらの労働が、人間労働力の支出として、抽象的に人間的な労働としてもっている共通な性格に約元(約分)〔Reduktion :還元.用語辞書参照〕されることによってのみ、ありうるのである。
私的生産者の脳髄は、彼らの私的労働のこの二重な社会的性格を、ただ実際の交易の上で、生産物交換の中で現われる形態で、反映するのである。すなわち――したがって、彼らの私的労働の社会的に有用なる性格を、労働生産物が有用でなければならず、しかも他人にたいしてそうでなければならぬという形態で――異種の労働の等一性の社会的性格を、これらの物質的にちがった物、すなわち労働生産物の共通な価値性格の形態で、反映するのである。
■ (注31) リカードの価値の大いさの分析
〔その抽象的に人間的な労働への整約 〔Reduktion:還元、換算(注1) 〕
―そしてこれは最良のものである―に不十分なところがあることについては、本書の第3および第4巻で述べる。しかしながら、価値そのものについていえば、古典派経済学はいずこにおいても、明白にそして明瞭な意識をもって、価値に示されている労働を、その生産物の使用価値に示されている同じ労働から、区別することをしていない。古典派経済学は、もちろん事実上区別はしている。というのは、それは労働を一方では量的に、他方では質的に考察しているからである。しかしながら、古典派経済学には労働の単に量的な相違が、その質的な同一性または等一性を前提しており、したがって、その抽象的に人間的な労働への整約 〔Reduktion:還元、換算(注1)〕 を前提とするということは、思いもよらぬのである。リカードは、例えば、デステュット・ド・トラシがこう述べるとき、これと同見解であると宣言している、すなわち「われわれの肉体的および精神的の能力のみが、われわれの*1本源的な富であることは確かであるから、これら能力の使用、すなわち一定種の労働は、われわれの本源的な財宝である。われわれが富と名づけるかの一切の物を作るのが、つねにこの使用なのである。……その上に、労働が作り出したかの一切の物は、労働を表わしているにすぎないことも確かである。そしてもしこれらの物が、一つの価値をもち、あるいは二つの相ことなる価値をすらもっているとすれば、これらの物は、これをただ自分がつくられてくる労働のそれ(価値)から得るほかにありえない」(リカード『経済学および課税の原理』第三版、ロンドン、1821年、〔邦訳、岩波文庫版、下巻、19ページ〕。〔デステュット・ドゥ・トラシ『観念学概要』第四・第五部、パリ、1826年、35・36ページ、参照〕)。われわれはリカードが、デステュットにたいして、彼自身のより深い意味を押しつけていることだけを示唆しておく。デステュットは、事実、一方では*1富をなす一切の物が「これを作り出した労働を代表する」と言っているが、他方では、それらの物が、その「二つのちがった価値」(使用価値と交換価値)を「労働の価値」から得ると言っている。彼は、これをもって、俗流経済学の浅薄さに堕ちている。俗流経済学は、一商品(この場合労働)の価値を前提して、これによって後で他の商品の価値を規定しようとするのである。リカードは彼をこう読んでいる、すなわち、使用価値においても交換価値においても、労働(労働の価値ではない)が示されていると。しかし彼自身は、同じく二重に表示される労働の二重性を区別していない。したがって、彼は、「価値と富、その属性の相違」という章全体にわたって、苦心してT・J・B・セイ程度の男の通俗性と闘わなければならない。したがって、最後にまた彼は、デステュットが、彼自身と価値源泉としての労働について一致するが、また他方で価値概念についてセイと調和することを、大変に驚いている。
(注1) 整約 〔Reduktion : 還元、換算(注1)〕 ー「用語辞書:整約する reduzieren」 open-yougo-s.html
「『資本論』第1章 商品
第1節□商品の2要素 使用価値と価値(価値実体、価値の大いさ)□
□ 「さらにわれわれは二つの商品、例えば小麦と鉄とをとろう。その交換関係がどうであれ、〔注・編集部〕この関係はつねに一つの方程式に表わすことができる。そこでは与えられた小麦量は、なんらかの量の鉄に等置される。
例えば、1クォーター小麦=a ツェントネル鉄というふうに。この方程式は何を物語るか?
二つのことなった物に、すなわち、1クォーター小麦にも、同様にa ツェントネル鉄にも、同一大いさの〔注・編集部〕ある共通なものがあるということである。したがって、二つ(両つ)のものは一つの第3のものに等しい。この第3のものは、また、それ自身としては、前の二つのもののいずれでもない。
両者のおのおのは、交換価値であるかぎり、こうして、〔注・編集部〕この第3のものに整約し(注: reduzierbar sein / reduzieren:〘数〙整約する、換算する.)うるものでなければならない。」(岩波文庫p.71)
■ この第3のものに整約し(注: reduzierbar sein)
この「整約」の用語は、広辞苑にも掲出されていませんので、探求してゆきます。
「整約する」→動詞形:reduzieren では、<化>還元する、<数>簡約、約分する、ーとあります。「両者のおのおのは、交換価値であるかぎり、こうして、この第3のものに整約し・・・」から以下の推察が可能です。
クラウン独和辞典によれば、
「例題:~auf seine Grundelement reduzieren :~をその基本要素に還元する。」とありますので、現時点ではこれに従います。なお、他の訳として、「<数>簡約、約分する」も検討の余地があります。
オックスフォード独英事典より:reduzieren→reduce
ジーニアス英和大辞典より:reduce 〔数学〕<分数>を約分する;<方程式>を(未知数を減らしたり整理したりして)解きやすい形にする。 〔化学〕・・・を還元する。 などが該当範囲に入ってきます。」
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