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 資本論用語事典2021
 元素Element概念形成史の原子論
 


  
元素 Element の系列 と 組織化 Elementarform (1)
      ~メンデレーエフと化学元素の周期律・周期表~

  「資本制生産における商品形態(商品形式)が、
   元素Element (構成要素)として細胞形態であり、社会の富を形成している」

  

元素 Element の系列と組織化 (2)
Elementarformの形成史
    目次
 1. 化学元素とは
 2. 元素の周期律とは
 3. 元素の周期表とは
 4. 元素の周期律・表の科学史上の意義
 5. 元素の組織化と
『資本論』のElementarform
 6. 21世紀ー「周期表の物語」
    元素から見た『化学と人類の歴史』 

 ・・・・・  ・・・・・・ 


 1. 
化学元素とは
 18世紀後半から19世紀前半にかけて化学の発展に伴い元素が数多く発見され、ラヴォアジエが作成したリストでは1789年に33個の元素が記載された。その後ドルトンは、水素原子の質量を1として相対原子質量(原子量)の表を出版した。
1830年までにその数は55種まで増えたが、それとともに元素は一体何種類あるのか、そしてこの増大してゆく元素に何かしらの法則性が隠されていないのだろうかという課題が明らかになった。このようにして、物質を構成する基本単位である元素を、化学上の元素で表現し、他の分野で用いられる元素と区別して限定する場合に、「化学元素」と認識されるようになった。


 2. 
元素の周期律とは
 化学元素を原子量順に並べると、元素の性質が周期的・巡回的によく似た性質が出現する。1860年代に研究がすすみ、1869年、ロシアのメンデレーエフによって「原子量順に元素を並べると、元素の性質が周期的に変わる」という周期律が提案された。 ー 『資本論』第1版の刊行は1867年、第2版は1873年 ー
 当時60種ほどの元素が知られていたが、原子量順の周期性を持続するとき、周期律の数か所で未知の元素が現れていた。メンデレーエフは、「未発見の元素」として扱い、その性質の元素がいずれ発見されると予言した。その後、1875年にガリウム、1879年にスカンジウム、1886年にゲルマニウムと次々と新元素が発見され、メンデレーエフの周期律が科学的に証明されることになった。


 3. 
元素の周期表とは
 物質を構成する化学元素が持つ物理的または化学的性質を「似たもの同士が並ぶように決められた規則(周期律)に従って配列した表」をいう。
 現在利用されている周期表は、1869年メンデレーエフによって提案された「原子量順に並べた元素が近似した性質を示す周期的な特徴を配列した表」に始まる。


 4. 
元素の周期律・表の科学史上の意義
 元素の周期的分類は、科学で行われた最も偉大で価値のある一般化の一つと評価されている。この分類法は、「
元素を組織化する原理」であり、「元素の性質と原子量の周期律を組織化の原理」としている。その結果、メンデレーエフは、元素を同定し定義するときの基本的な量を確立し、未知の元素を予言することが可能となった。
 20世紀には、周期律の意味が原子構造論の言葉で説明されるようになり、原子番号の概念とラザフォードの原子核とが相互に結びつくことによって現代的に再定義された。

 5. 元素の組織化『資本論』のElementarform
 
*元素の周期律:元素を原子番号順に並べると、化学的性質の似た元素が周期的に現われる。これを元素の周期律(periodic law)という。
 
*元素の周期表:元素を原子番号順に並べ、化学的性質が似た元素が縦に並ぶようにした表を周期表(periodic table)という。

 『資本論』のElementarform

 『資本論』の始まり 第1章は、「社会の富」と「個々の商品」の関係がElementarformとして現われ 〔erscheint:現象する〕、『資本論』の研究は「商品の分析」で始まる と宣言しています。
 1-1「 資本主義的生産様式〔 kapitalistische Produktionsweise:資本制生産の方法〕の支配的である 社会の富は、「 巨大なる商品集積〔”
ungeheure Warensammlung":そら恐ろしい商品の集まり・集合 〕」として現われ、個々のeinzelne 商品はこの富の成素形態 〔Elementarform:元素の形式(化)〕 として 現われる erscheint。したがって、われわれの研究は商品の分析をもって始まる。」

 この短い文脈において、マルクスは「元素Element」と「元素の形式化・周期律表 Elementarform の観点を取り入れています。すなわち、「資本制生産における商品形態(商品形式)が、元素Element (構成要素)として細胞形態であり、社会の富を形成している」と、宣言しています。

  〔*
『資本論』草稿第1部「*直接的生産過程の諸結果を参照〕
 
 


  6. 21世紀ー「周期表の物語」 ★メンデレーエフの金字塔★
  元素から見た 
『化学と人類の歴史』 アン・ルーニー著 原書房 2019年発行
    
  元素Elementの物質進化と形式化ーElementarform 

  目次 はじめに 組織化の原理
 第1章 物質とは何か?       第2章 中世までに利用されていた元素
 第3章 空気を調べてわかった物質の本性    第4章 新しい元素 
 第5章 微粒子から元素へ     第6章 秩序を求めて 
 第7章 原子の謎、解明される    第8章 元素を変化させる
 第9章 天上の元素工場 おわりに 全と無

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 ・・・・ はじめに ・・・・ 
   ■ 
組織化の原理
 私たちを取り巻く世界は、さまざまなものに満ち溢れている。生物にせよ無生物にせよ、「もの」は数百万種類の化学物質から作られている。だが、これらの化学物質はどれも、「化学元素」と呼ばれるごく少数の原料でできている。今日私たちは、118種類の元素がすべての物質を作っているというモデルを使っている。このモデルでは、各元素には固有の原子があり、元素の性質は原子の構造によって決まっている。さまざまな元素がありとあらゆるかたちで結びついて、自然界に存在する、あるいは、工場や実験室で生み出される、すべての化合物を形作る。
 天文学者ウィリアム・ハギンズは、元素は地球にとどまらず、宇宙の全域に行き渡っている根本的なものであることを認識していた。彼が言う「普遍的な化学」は、この200年の間に人類があげた卓越した成果のひとつである、元素周期表に表されている。人間を取り巻く混沌とした物質世界に、周期表がどれほど秩序をもたらしたかは、科学の最大の物語のひとつだ。私たちが、化学元素がいかに振舞い、いかに結合するかを理解でき、元素が関与する化学過程がどのように進行するか予測できるのも周期表のおかげだ。この理解を私たちが真に自分のものにできれば、化学の力を利用してまったく新しい物質を作り出し、病気の治療から原子力の実用化まで、私たちの必要を満たす目的に利用することができる。

   ■ 
カオスから化学へ
 私たちが現在使っている周期表は、これまでに作られた科学文書のなかで、最も濃密に情報が詰まったもののひとつだ。そこにはすべての元素が、対応する原子の構造で決まる順序に並べられている。この原子の構造が、元素の性質と振舞いを決定している。だが、周期表が生まれたとき、誰も原子の構造など知らなかった。じつのところ、原子が存在するかどうかすら、誰にもわからなかったのだ。
  化学者たちが周期表の作成に取り組み始めたのは19世紀のことだが、物語ははるか以前に始まっていた。古代ギリシアの哲学者たちは、物質の性質について考察し、素朴な原子論と、私たちを取り巻くすべてのものは、ごく限られた数の、物質の「根」がさまざまな比で結合することによって形成されるという考え方を提唱した。古代から始まって近代の周期表に至る道は、楽でもなければ真っ直ぐでもなかった。それは2000年以上にわたり正しい道から大きくはずれ、ようやく1660年ごろになってしかるべき軌道に戻ったのだった。
 本書では、
「物質は限られた数の基本的な化学物質からできている」、「化学元素というものが存在する」、「物質は原子でできている」という、3つの重要な発見に注目して物語をたどっていく。化学者、哲学者、熱心な錬金術師、そして原子核物理学者の取り組みを紹介するほか、恐ろしい事故に遭った人や、配慮が足りずに苦難を強いられた人、そして科学の進歩に身を捧げた人についても触れる。つまり本書は、私たちの宇宙がこのように成り立っているのはなぜかを理解するという、ひとつの目標を押し進めるために、時空を超えて共に努力する人々の物語なのである。
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   第8章 元素を変化させる
   ■ 
新しい見方
 歴史を通して、化学者たちは周囲の世界のなかに、新しい物質を探し求めてきた。元素という概念が生まれてからは、元素が探し求められるようになった。何世紀ものあいだ、彼らの主要なツールは火と溶媒だった。20世紀が始まるまでに、これらのツールで発見可能な元素の大部分はすでに発見されていた。だが、その頃、新元素を探し求める化学者たちは、有用な新しいツールをふたつ手にしていた。分光法と放射能である。
 分光法は、科学者たちがある物質が新しい元素かとうかを判別するのを助けた。スペクトルの特徴が既知の元素と一致しないなら、何か新しいものが発見されたということになる。一方放射能は、新しい元素を発見する手がかりとなった。ここから、新たな疑問が湧き上がった。もしも元素が放射性崩壊によって自然に発生するなら、同じ方法で人為的に元素を生み出すことができるのではないか? 20世紀のうちに、最初の元素合成――人間が物質の根源を操作して強制的に元素を生み出すこと――が行われる。
  ■ 
X線、U線、そしてパリのある暗い引き出し
 1896年、フランスの物理学者アンリ・ベクレルは、蛍光物質(蓄えていた光を放出して、暗闇で光る物質)の研究をしていた際に放射能を発見した。彼は、蛍光とX線に研究があることを突き止めようとしていたのだが、代わりに、さまざまなウラン化合物が写真乾板を黒化することを発見した。・・・ベクリルは、ウラン塩と写真乾板を引き出しのなかにしまった。数日後、写真乾板を引き出しから取り出した彼は、ウラン塩を日光にさらしてはいなかったが、その乾板を現像することにした。彼が驚いたことに「線」が包み紙を貫通して乾板にウラン塩の痕跡を残していた。・・・彼はその後、金属ウランもやはり同じ効果を持つことを発見した。
 ベクレルは最初、その「線」はX線に似たものだと考えていたが、さらに調べると、両者はまったく異なることが明らかになった。
   ・・・・・・・・・・・ 

   -おわりに 全と無-
 「 2000年以上前、人々は、すべての物質は虚空、もしくはカオスから生じると考えていた。多くの文化で、その生成は、神による創造だと信じられていた。やがて物質は自らの構造を整えて-あるいは、何かに整えられて-形のないものから、属性を持った万物の構成要素へと変貌した。今私たちは、ある意味、元のところに戻ってきたのだ。現代のモデルでは、すべての物質(時空も含めて)はビッグバンの瞬間に始まったことになっている。
数十億年をかけて、その原初の物質は化学元素へと形作られていき、今や元素は、私たちの周囲にあるすべてのものを構成し、それらに性質を与えている。このモデルは、古代ギリシア人たちにも、それほど違和感なく理解できるのではないだろうか。
 物質の構成要素を明らかにし、それらを周期表として配列する取り組みにおいて、化学者たちは離れ業的な偉業を成し遂げたが、それは発見の連続でもあった。私たちが生物を分類する際には、重要で注目に値すると思われる特徴を選び、それらの特徴に基づいて行う。それは数多ある可能な分類方法のひとつである。しかし、周期表の場合はそうではない。周期表は、原子内の素粒子の数という、物質の基本的な性質に基づいている。科学者たちが、周期表の順番がこの基本的な性貨とどのように関連しているかを知る前に、その現れである効果を調べることによって、周期表の大部分を完成させたことは、じつに印象深い。
 標準的な形式の周期表は、誰もが知っている象徴的な存在となっている。同じ内容を異なる形式で表示しようとする試みがこれまでに多数行われており、たとえば円形の周期表や三次元の周期表などがある。
   宇宙に向かって話しかける
 周期表はおそらく、私たちがほかの惑星上の知的生命体と共有できる唯一の知識であり、たとえその生命体がほかの銀河に存在したとしても、やはりそうだと考えられる。周期表は宇宙の隅々まで有効なのだ。1970年代前半、NASAは太陽系の外惑星[具体的には木星と土星]を探査するためにパイオニア10号と11号を打ち上げた。これら2機の宇宙船は現在、太陽系の外へと向かって飛行を続けており、永遠に私たちの太陽系から遠ざかっていく。パイオニア10号は、赤く輝く恒星アルデバランに向かっており、200万年ほどすれば到達するはずである。パイオニア11号はワシ座の方向へと飛行しており、400万年ほどでそこを通過するはずである。

 両機は、どんな異星人に発見されても、どこからやってきた宇宙船なのかがわかるように、一連の記号や絵を刻印した金色の金属板を搭載している。板の左上(私たちなら最初に見る部分)には、宇宙で最も豊富な元素である水素の中性原子でスピンが反転する様子を表す図が描かれている。さまよう宇宙船を捕獲するほど文明が発達した異星人なら、必ずその意味がわかるはずだ。同じ図には、この金属板で使う時間と距離の単位が、水素原子のスピン反転現象[正確には超微細遷移と呼ばれる]に関連付けられていることが示されている。具体的には、このスピン反転で水素原子から放出される電磁波の振動数1420MHzの逆数、0.7ナノ秒を時間の単位として使い、また、この電磁波の波長21cmを距離の単位として使うことが理解できるようになっている(描かれた女性の身長は21cmの8倍である)。
 周期表は極めて普遍的な共通語なので、身体構造や、文化や思考回路が異なる他の生命体に話しかけるのに、周期表を使うのはいい選択だろう。その日が来るまでに彼らが元素について発見する事柄は、私たちがこれまでに発見したことと同じはずだ。彼らが辿る周期表の物語の道筋は違うだろうが、到達する結論は宇宙のどこでも同じに違いない。」
 ・・・・終わり・・・